弁護士や司法書士等の士業とオンラインストレージと私たちの活用方法
以前、事務所内でファイルを共有するためのオンプレミス環境のファイルサーバーについての記事を書きましたが、今回はオンラインストレージについて書きたいと思います。
オンラインストレージとはクラウド上にあるいわばファイルサーバーのようなものですが、各社が提供しているオンラインストレージには様々な特徴や注意点があります。
私たちは弁護士、法律事務所、司法書士等の士業のホームページ制作をする際に大容量のファイルをお客様とやりとりする機会が頻繁にあることからオンラインストレージを非常にハードに使用しています。一般的な士業の事務所が扱うWordやExcelなどのファイルと比べると容量も数十倍〜数百倍になることもあり、さらに一度にやりとりをするファイルの量も数千ファイルになることもよくあります。 このような私たちの使い方に耐えられるオンラインストレージであれば弁護士や司法書士の方も充分に使えると自信をもっておすすめできます。
このページの目次
弁護士や法律事務所等の士業が扱うファイルをオンラインストレージで使用することの注意点
ホームページ制作で使用するファイルには、HTMLやCSSなどの容量が非常に軽いファイルもあれば、一眼レフで撮影した写真のように1枚あたり数十MBになるようなファイル、そして動画ファイルのように1ファイル5GBに及ぶようなものも多く存在します。
そしていずれのファイルも非常に数が多くお客様1件あたりのデータ保存の平均容量は数十GBになることも珍しくありません。
この点、士業の方が使用するExcelやWordなどのOffice製品のファイルは数十キロバイトから比較的容量が重くても1MB程度のものが多いと思います。
また、私たちの扱うデータは「ホームページ」で公開されているものや公開予定のものがほとんどですが、士業の扱うファイルは機密性が極めて高いものが多いことが特徴的ですね。
そうすると、弁護士や司法書士等の士業の方はホームページ制作で扱うファイルよりも、より高度なセキュリティの確保が必要になり、さらにオンラインストレージにアップロードするということを考えると、データが検閲されず、そして利用規約にデータ自体の秘密保持条項が含まれており守秘義務が担保されているかどうかが重要になるといえます。
第二東京弁護士会が発行しているレジュメに「自宅でできる弁護士業務」というものがありますが、守秘義務が担保されていることの重要性が記載されていました。 これは、守秘義務が担保されていないオンラインストレージにアップロードすること自体が弁護士に課された守秘義務に反するためです。
参考URL:http://niben.jp/niben/books/frontier/frontier201610/2016_NO10_23.pdf
上記のレジュメでは触れられていないものの、個人向けの無料で利用できるGoogleドライブは現状注意が必要だといえます。 有料版のGsuiteに含まれるGoogleドライブと無料版では規約も大きく異なりますので、利用している方や利用予定の方は一度ご確認いただくことを強くおすすめしたいと思います。
そもそもオンラインストレージを使用する目的とは、、
そもそもオンラインストレージを使う目的とはなにかについて書きたいと思います。
代表的な機能1:ファイルを共有するという役割
おそらくオンラインストレージを利用する多くの人がこの機能を利用するために使用しているのではないでしょうか。 ただ、ファイルを共有するといっても大きく分けて2つの意味があります。
一つは、自分以外のユーザーとファイルを共有するためです。 例えば、事務所内の別のユーザーや外部の人とファイルやフォルダを共有するという使い方があります。
ワードファイルなどの軽量のファイルが中心であれば、事務所内に設置したオンプレミス環境のファイルサーバーと同じような感覚で使用できると思います。
そしてもう一つは、自分が使用する他の端末と共有・同期するためです。 1人が複数台のパソコン、タブレット、スマートフォンを所有することが珍しくない時代になったこともあり、端末間の同期・共有が業務の効率化にかかせなくなりました。 オンラインストレージが登場する前までは、他の端末でもファイルを使用するためにメールでデータを送信したり、USBメモリにデータを入れて他の端末で開いていたのではないでしょうか。 オンラインストレージが登場してからは端末間の共有が楽になったので本当に便利になりましたね。
代表的な機能2:データをバックアップするという役割
パソコンの故障や盗難に備えてデータをオンライン上で管理するという方も多いようですね。
一昔前のストレージ(HDDやSSD)よりも故障することも少なくなりましたが、それでも故障には備えなくてはいけませんので、オンラインストレージを活用するという方も多いですね。
また、ファイルをストリーミング方式(スマートシンク方式)で利用するオンラインストレージ(Googleドライブファイルストリームなど)はパソコンを盗難された場合など、遠隔でログアウトすることでファイルにアクセスできなくすることもできるので、セキュリティ的な視点でも優れているといえます。 ※キャッシュファイルが残っているデータはロックできないので工夫は必要です。
代表的な機能3:データを収集するという役割
私たちのように大容量のデータを大量に扱う業種の場合、お客様や取引先から大容量のデータを受け取らなくてはならない場面もよくありますが、このような大容量のデータはメールで送受信することが難しいのが現状です。
例えばGmailでは25MBという送信容量制限があるだけでなく、受信者側のメールサーバーで更に制限がされていることもあるので、現実的には15MBくらいに抑える必要があり大容量の添付ファイルは現実的ではありません。
オンラインストレージのパイオニア的な存在の「ドロップボックス」ではファイルリクエスト機能があり、データを受信する側がドロップボックスで特定のフォルダにアップロードする権限を付与することで、送信者側はURLを開きブラウザにドラッグアンドドロップするだけでファイルがアップロードされ、受信者側のドロップボックスに送信することができるのです。
多くのオンラインストレージでは、送信者側と受信者側の双方がアカウントを所有していて、さらに特定のフォルダを共有するという設定プロセスが必要となりますが、ドロップボックスにあるファイルリクエスト機能は受信者側、つまりドロップボックスのアカウントを持っている側だけがアカウントを持っていれば足りますので送信者がアカウントを持っているかどうかを確認することなくファイルをリクエストできるのです。
私たちの場合、ドロップボックスのファイルリクエスト機能だけが利用したくて利用をした経緯があります。(最近メインのオンラインストレージをBoxにしました。理由は後述します)
パソコンの容量を消費せずにデータにアクセスする役割
パソコンの中に全てのデータを保存すると非常に沢山のストレージ容量が必要になります。
しかし、オンラインストレージを活用することで、パソコンのストレージをほとんど消費せずに必要なデータにアクセスすることが出来る様になります。 データにアクセスする方式は大きく分けて2種類あります。
●同期する方式
オンラインストレージにあるデータを全て同期したり、必要なフォルダだけを同期することができます。 この方式を利用すると、同期した分だけ容量を消費しますが、よく利用するファイルやフォルダだけ同期することで最小限のストレージ容量ですみます。
●ストリーミング方式(スマートシンク方式)
この方式を利用するとパソコンの容量をほとんど消費せずオンラインにあるデータ全てに柔軟にアクセスできます。 使用頻度の低いデータもパソコンに自動でダウンロードされる同期方式とはことなり、ストリーミング方式はファイルを開いた瞬間にデータがダウンロードされ、普段使用しているフォルダやファイルを扱うような感覚で使用できるのが最大のメリットだと言えます。
ただ、この方式はファイルを開くときにデータをダウンロードするため、ネット環境が必須となります。
(特定のデータだけオフラインでも使用できるように設定できます)
オンラインストレージを選定する際の基準と実際の使用感
私たちはがオンラインストレージを選定する際に絶対に必要だった機能は次の通りです。
● 利用規約に秘密保持条項が含まれておりセキュリティが高いこと
● ファイルのリクエストができること(アカウントを持っていないユーザーからデータを受け取れる) ● ログイン等のログを確認できること
● ファイルはストリーミング形式を基本としつつ、特定のフォルダやファイルをオフラインでも使用できること
● 容量が無制限または10TB以上
● データのダウンロード速度が使用に耐えうるものであること
● オンプレミス環境のファイルサーバー(NAS等)と同期できること
● 大量のファイルを柔軟に扱えること
上記のような基準で選定しました。
最終的に有力な候補となったのは、ドロップボックス、Googleドライブ、Box、One Drive(Business)です。
あと一歩の機能が欲しかった「Googleドライブ」
私たちはGoogleが提供するGsuiteを利用していますので、Googleドライブが自然と候補にあがりました。
そして、Googleドライブは使い方によっては非常に便利なのですが、私たちの求める「ファイルのリクエスト」が現段階ではできないことと、フォルダの階層やファイル数に制限があることから一つのフォルダに大量のファイルを保存することには向きません。
ただ、GoogleドライブはGmailなどのGoogleサービスとの連携が素晴らしいことから軽量のファイルを扱うときは使用しています。
あと、Gsuiteには「チームドライブ」という機能があるのですが、この機能は非常に便利で安心です。
ファイルのリクエスト機能が実装されファイル数の制限が緩和されればGoogleドライブに一本化したいところです。
ダウンロードやアップロードが低速な「One Drive」
マイクロソフトが提供しているOne Driveも試験的に使用してみましたが、ダウンロードやアップロードが時間を問わず低速だったため詳しい検証はせず、採用は見送りました。
今後速度が改善されれば詳細に検証してみたいと思います。
実際に採用して解った「ドロップボックス」の弱点
規約も安心で速度も実用的な速度、ファイルリクエスト機能もあり容量も無制限、そして、ファイルはストリーミング形式にも対応したこともあり有料版を契約ししばらく使ってみました。
しかし、一つ弱点が見つかりました。しかも致命的な、、、
致命的な弱点とは、「大量または大容量のフォルダを削除できない」ということです。
大量のファイルをドロップボックスに保存したあと、不要になったデータを削除しようとするとエラーが発生するのです。 そして、下層にあるフォルダやファイルを少しずつ消して容量を減らしてから出ないと上位階層からは削除できないのです。 非常に手間でした。削除するのが手間でゴミファイルばかりが貯まっていきました、、
サポートにも確認したのですが、パソコンに一度同期をしたあとであれば削除できるとの回答をいただきましたが容量やファイル数からすると、同期出来る端末なんてありませんし、現実的に不可能でした。
妥協点が許容範囲の「Box」
いろいろなオンラインストレージを試して結局はBoxにたどり着きました。
外部のユーザーにファイルを送信して貰う際は「外部ユーザー」というアカウントを発行する必要がありますが、「Box BusinessPlus」というプランを利用すると追加料金無しで外部ユーザーアカウントを発行できることが決め手になりました。
現時点でBoxで妥協しているのは、
・1ファイル5GBまでという制限があること(1ファイル単体で5GBをオンラインストレージに保存することは少ない)
・速度がGoogleドライブよりもやや低速(実用に耐えうる程度の速度ではあります) という点です。
セキュリティは非常に高く、アクセス権限の付与などが柔軟に設定出来ることからオンラインストレージを利用している企業の多くがBoxを採用していることにも納得がいきます。
士業のコンサルティングやホームページ制作でもなじみのある船井総研さんも採用しているようです。
「Box Business Plus」を本格的に運用してみて感じたこと
様々なオンラインストレージを使用してみてBoxに落ち着き本日にいたります。
法律事務所、弁護士、司法書士等の士業のホームページ制作をしたり、コンサルティング、マーケティングを行っていると日々様々なデータを扱います。
ExcelやWordなどの軽量なファイルももちろん扱いますが、写真や動画、データベース、プログラムやシステムなど非常に沢山のデータを扱い、さらにお客様からもデータをお送りいただく機会も頻繁ですので、一週間程度利用すると一通りの機能や性能を評価できる程度になります。
ファイルを共有したり、オンプレミス環境のファイルサーバーと同期したり、外部ユーザーアカウントを発行したりしましたが、現状ではドロップボックスのような問題も生じておらず非常に快適に使用できています。
さいごに・・
私たちのようにBoxを利用しつつGoogleドライブを並行して利用し、それぞれの特徴を理解しながら使い分けるのも良いと思います。 (もちろんコストがかかりますが(^_^;))
オンラインストレージなどの技術は日々大きな進化をしていますので、本記事を読むころには更に進化していることもあると思います。
本記事を目安程度に参考にしていただき、無料体験期間などを活用して実際にお使い頂くことをおすすめしたいと思います。
これからオンラインストレージを導入する弁護士や司法書士などの士業の方の参考になれば嬉しく思います。
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